6 貸金業法17条書面の不備「返済期間,返済金額等」
(最判平23年12月1日)
(1)本件取引は,基本契約の下で,借入限度額の範囲内で借入れと返済を繰り返すことを予定して行われたもので,その返済の方式は,全貸付けの残元利金について,毎月の返済期日に最低返済額を支払えば足りるとする,いわゆるリボルビング方式の一つである。
(2)本件各取引において貸金業法(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)17条1項所定の事項を記載した書面(以下「17条書面」という。)として原告に交付された各書面には,同項6号に掲げる「返済期間及び返済回数」や貸金業法施行規則(平成19年内閣府令第79号による改正前のもの。以下同じ。なお,同改正前の題名は貸金業の規制等に関する法律施行規則)13条1項1号チに掲げる各回の「返済金額」(以下,「返済期間及び返済回数」と各回の「返済金額」を併せて「返済期間,返済金額等」という。)に代わるものとして,平成14年6月までは,次回の最低返済額とその返済期日の記載がされていたにとどまり,同年7月以降になって,個々の貸付けの時点での残元利金について最低返済額を毎月の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等の記載(以下「確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載」という。)がされるようになった。
(3)本件取引において原告がした各弁済(以下「本件各弁済」という。)のうち制限超過部分の支払は,貸金業法43条1項の適用要件を欠き,有効な利息の債務の弁済とはみなされない。
(4)貸金業法17条1項6号及び貸金業法施行規則13条1項1号チが17条書面に返済期間,返済金額等の記載をすることを求めた趣旨・目的は,これらの記載により,借主が自己の債務の状況を認識し,返済計画を立てることを容易にすることにあると解される。リボルビング方式の貸付けがされた場合において,個々の貸付けの時点で,上記の記載に代えて次回の最低返済額及びその返済期日のみが記載された書面が17条書面として交付されても,上記の趣旨・目的が十全に果たされるものではないことは明らかである反面,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をすることは可能であり,かつ,その記載があれば,借主は,個々の借入れの都度,今後,追加借入れをしないで,最低返済額を毎月の返済期日に返済していった場合,いつ残元利金が完済になるのかを把握することができ,完済までの期間の長さ等によって,自己の負担している債務の重さを認識し,漫然と借入れを繰り返すことを避けることができるのであるから,これを記載することが上記の趣旨・目的に沿うものであることは,平成17年判決の言渡し日以前であっても貸金業者において認識し得たというべきである。
(5)そして,平成17年判決が言い渡される前に,下級審の裁判例や学説において,リボルビング方式の貸付けについては,17条書面として交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなくても貸金業法43条1項の適用があるとの見解を採用するものが多数を占めていたとはいえないこと,上記の見解が貸金業法の立法に関与した者によって明確に示されていたわけでもないことは,最高裁判所に顕著である。
(6)上記事情の下では,監督官庁による通達や事務ガイドラインにおいて,リボルビング方式の貸付けについては,必ずしも貸金業17条1項各号に掲げる事項全てを17条書面として交付する書面に記載しなくてもよいと理解し得ないではない記載があったとしても,貸金業者が,リボルビング方式の貸付けにつき,17条書面として交付する書面には,次回の最低返済額とその返済期日の記載があれば足り,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなくても貸金業法43条1項の適用が否定されるものではないとの認識を有するに至ったことがやむを得ないということはできない。
(7)そうすると,リボルビング方式の貸付けについて,貸金業者が17条書面として交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をしない場合は,平成17年判決の言渡し日以前であっても,当該貸金業者が制限超過部分の受領につき貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有することに平成19年判決の判示する特段の事情があるということはできず,当該貸金業者は,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。
(8)前記事実関係によれば,本件各取引において17条書面として原告に交付された各書面には,平成14年6月までは,次回の最低返済額とその返済期日の記載があったにとどまり,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がなかったというのであるから,被告において平成19年判決の判示する特段の事情があるということはできず,被告は,この時期までに本件各取引から発生した過払金の取得につき悪意の受益者であると推定されるものというべきであり,この推定を覆すべき事情は見当たらない。
(9)そして,同年7月以降は,本件各取引において17条書面として原告に交付された各書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載がされるようになったが,それより前から本件取引は継続して貸金業法43条1項の適用はなかったというのであるから,同月以降も,約定利息が発生する余地はなく,この時期にされた制限超過部分の支払につき貸金業法43条1項を適用してこれを有効な利息の支払とみなすことができないことは明らかである。そうすると,本件取引につき,同月以降,17条書面として交付された書面に上記の記載があったとしても,被告がそれまでに発生した過払金の取得につき悪意の受益者である以上,この時期に発生した過払金の取得についても悪意の受益者であることを否定することはできない。よって,被告は,本件各取引における過払金の取得について民法704条の「悪意の受益者」であるというべきである。